2009年12月7日月曜日

Thomas Campbell Interview:『present』について

今年の夏、公開されたトーマス・キャンベル(Thomas Campbell)の映画『present』が、
日本版DVDとしてリリースされる。
『the Seedling』『Sprout』とサーフ・ムービーを作り続けてきたThomasにとって、
3作目となるこの作品は、相変わらずの美しい映像と、驚くべきライディング・シーン、
笑いを誘うコスチューム・サーフィン、さらに未開の地へのtripや
今のサーフ・シーンを織り交ぜながら、いくつかの短編映画を集めたような、
緻密な構成になっている。ボクは幸いなことに今年5月、
『present』のプロモーションのために来日した彼にインタビューする機会を得た。
そこで彼が語ってくれた話は、とても面白かった。
これはその時のインタビューのそのままの原稿だ。
もし、少しでもトーマスや彼の作品(映画に止まらず……)に興味がある人がいれば、
このインタビューを読んで楽しんでもらえれば幸いです。
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初めてトーマス・キャンベルに会ったのは、'03年の9月ことだった。カリフォルニアのラグナ・ビーチで行なわれた初開催のムーンシャイン・フェスティバル。音楽、アート、写真、ムービーとサーフィンにインスパイアされて生み出されるサーフ・カルチャーを集めたイベント。ジャック・ジョンソンは、まだ初来日を果たす直前で、G.Loveとふたりでライブを行なっていた。トーマスにいたっては、最初のサーフ・ムービー『the Seedling』の次回作が話題になっていた時期で、ボクはもしかしたら、その会場でその新作を見ることが出来るかも知れないという淡い期待を胸に、広々とした会場をウロウロしていた。残念ながら新作のお披露目はなかったものの、一緒にいた石田道朗さん(藤沢のサーフショップ、カリフォルニアのオーナー。彼は当時、サンタモニカに住んでいて、トーマスと共に『the Seedling』のプロデュースをしていた)にトーマスを紹介してもらった。もっともワインで程よく酔っていた彼に、ボクのことが覚えられたのかは怪しいもの。ただ、酔っていたとは言え、彼はちょっとした話にでも、すぐに答えを出さず、頭の中で一度考えをまとめ、話す。また、話す相手の目を見すえ、ひと言ひと言分かりやすく話してくれる態度に、とてもクレバーな人なんだろうなという印象を持った。そう、余談ではあるけれど、この時の会場では、今はカリフォルニアの人気サーファーに成長したアレックス・ノストが、45ドルの入場チケットを何やらうまくゲットし、友達とトーマスの周りではしゃいでいたこともよく覚えている。
それから2年後、『Sprout』が完成し、日本でも公開されることになった。プロモーションのために来日したトーマス。この時はタイミングよく、『Sprout』の音楽を担当したトミー・ゲレロとマニー・マークも来日公演が重なって来日していた。映画自体の話、サウンドトラックの話など、ボクは3人に、映画にまつわる話をいろいろと聞いた。そんな話の中で、特に印象に残ったのが、今、カリフォルニアで一番注目しているカルチャーについての話でのことだった。何と3人が口を揃えて言うのが、「すごい才能の双子のミュージシャンがいる」。その時は時間もなく、話はそのまま終わってしまったが、双子のミュージシャンのことは、それ以降ボクの頭の端にずっと引っ掛かっていた。
この時のプロモーション来日で、トーマス・キャンベルはタフに仕事をこなしていた。代官山airで行なわれた特別試写会ではスプラウト・ハウスバンドとして、音楽を担当したジャック・ジョンソン、トミー・ゲレロ、マニー・マークらによる豪華なライブもあり、大勢の人が会場に溢れた。翌日は7時間以上にも及ぶインタビュー攻勢。息つく暇なくいろんなメディアがトーマスの話を聞きに来る。トーマスは言っていた。「一日だけ時間をくれ。藤沢に行って、海に入りたいんだ」。
インタビューの翌日、ボクは原宿でトーマスと一緒に来日していたアレックス・ノストをエアコンに効かない自分の車に乗せ、藤沢のカリフォルニアを目指した。さて、車でかける音楽はどうしたものか? マニアとも言える音楽好きのトーマス。しかもハードなスケジュールをぬってのサーフィン。トーマスはどんな音を聴きたいんだろう? いろいろと考えた末に、ボクはマイルス・デイヴィスの『アガルタ』を、海へのドライブ・ミュージックに選んだ。車に乗るなり「おっ、これはマイルスだね」と最初の言葉を放ったトーマス。さすがだ。「そう『アガルタ』だよ」「いいね」。どうやらトーマスはファンクのビートがハマったようで、後部座席でアレックスと楽しそうに会話している。
藤沢のカリフォルニアではどうやらトーマスが来日前に注文していた、出来立てのウエットスーツが用意されていて、ボクらはすぐにサーフボードを借りて鵠沼に入った。昨日のインタビューの時とは、明らかに表情が違うトーマス。2時間近く海にいただろうか。ウエットを着替え、ボードを車に積んでいる時、トーマスは「これからスケートボードがしたいんだけど、近くにパークみたいなところはある?」と聞く。すごいスタミナというか、徹底的に遊ぶ姿勢。これがカリフォルニア・スタイルなのか? それからまた2時間弱、小さいパークだったが、飛んだり跳ねたり、Tシャツの大部分が汗で色が変わるくらい遊びまくるトーマス達。そして、6月の太陽が沈みかける頃、やっと納得したトーマス。その後はトーマスの知り合いでもある藤沢のローカル達とゆっくりと食事をし、ホテルのある渋谷へ再びドライブ。車を走らせて、すぐにトーマスがとり出したのがまだパッケージされたままのホワイトストライプスの『Get Behind Me Satan』。ただ、一日中遊んで、ちょっと気持ちいい倦怠感にはマッチしなかったのか、別のCDをかけてくれという。ちょっと考えて、ボクはジョン・コルトレーンの『ブルー・トレイン』のCDをカーステに入れた。しばらくして後部座席をチェックすると、トーマスもアレックスも、気持ちよさそうに寝息を立てていた。

……。あれから4年。トーマス・キャンベルの新しいサーフ・ムービー『Present』が完成し、今年の夏、日本でも劇場公開される。『the Seedling』『Sprout』と来て、次が『Present』。かつてボクはトーマスに「『Sprout』の次は、やっぱり『Flower』なのかな」と聞き、「そんな単純なものでもないよ」と一笑されたことがあったけれど、確かにそんな単純な流れでトーマスはサーフ・ムービーを作っているわけではない。サーフィンの今を切り取り、過去をリスペクトし、新しい驚きを必ず作品の中に盛り込んでくれる。例えばソフィア・ムラノビッチ。ロングボードを優雅にメロウに乗りこなす女性サーファーの映像はよく目にするようにはなったが、チューブの中を滑り抜けてくるソフィアのような女性サーファーは、いまだかつて見たことがなかった。そしてフィンもなく、木製の板一枚のようなボード、アライア。先祖返りともいえるようなシンプルなそのボードを使って、トップサーファー達が楽しそうにライディングする様を、カメラはその表情がわかるくらい、リアルに追いかけて行く。彼のサーフ・ムービーは、まるで雑誌を見ているかのような編集方法が取られている。いくつかの特集があり、それをひとつの映画として配列よく並べて行く。そのための素材(映像)集めのため、トーマスはいろいろなアイデアを考えて行く。「長年、スケートボードの雑誌の編集をしていたから、そういう作り方をしているのかも知れないね」。トーマスはそう話していた。だからただだらだらとサーフィンをしているだけのものではなく、トーマス・キャンベルのサーフ・ムービーは、見るものを飽きさせず、映像の美しさにやられるのだろう。

そんなトーマス・キャンベルに、インタビューした。もちろん新作『Present』のことについてだが、今回は特にサウンドトラックや彼の音楽の話に緩やかにフォーカスしつつ、話を聞いてみた。

『Present』の制作には、どれくらいの期間がかかったのですか?
トーマス・キャンベル(以下T):5年くらいかな? まぁ、スローなペースだね。自分のメインの仕事はアーティストであって、絵を描いたり、作品を制作することによってお金を作ってるわけだ。大きく分ければ、アートと映画の両方を創作しているってとこかな。でも、サーフィンの映画に関しては、決して金もうけのためにやっているのではなく、とにかくいい作品を残したいと思って作っている。自分の作品は他のサーフ・ムービーよりもコストはかなりかかるだろうしね。でも自分としては、とにかく少しでもいいものを作るという方が重要なので、お金を得るために、短い期間でたくさん映画を作るようなことはしたくないんだ。

今回の作品には、『the Seedling』や『Sprout』以上に映画自体にスピード感が感じられたが、これはサウンドトラックにスピーディなものが多かったからですか? また、そういうスピード感溢れる映画にしたかったのですか?
T:いやいや、ボクの映画に使われているのは、メタリカやスレイヤーじゃないよ(笑)。何でもそうだと思うけど、キャリアを積んで行く上で、進化して行くというのは重要だろう。今までや最初の頃の作品を見てみると、確かにスローテンポでムードというか、雰囲気を大事にしている作品にしたかったんだ。でも『Present』を見ると、映画が進行して行くペース的にも、早めに構築して行きたいというのはあったんだ。でも、それはサントラの音楽自体が早いということはなくて、テンポ的には前のものと同じようなものだと思う。きっと、カット割りのタイミングなどが早いんじゃないかなと思うんだ。

いつもトーマスの映画を見ると、ペインティングしている映像が出てきますよね。でも、今回はそういうシーンがなくて、西アフリカのミュージシャンのセッションのシーンが入っていたりする。あれはとても新しい試みだったようなきがしますが、なぜあのシーンを入れたんですか?
T:実はね、ペインティングはあったんだよ。アレックス・ノストがやっているよ。それは本当に一瞬だったんだけどね。アレックスはとてもクリエイティブなサーファーで、やりたいことを自分のやりたいように何でも出来る。自分自身に自信を持っているから。彼のバンド、ジャパニーズモーターズをボクがプロデュースして、スタジオでレコーディングもした。映画の中で彼が歌っているシーンを撮りたいと思って、そのシーンを実際に使うことにもなった。廃虚や車などにペインティングをしているシーンというのは、過去、2つの作品でやっているので、もうやる必要もない。だから今回は、アレックス・ノストがアートを作っているシーンということで、彼自身の音楽を使って、そのシーンに絡ませてみたんだ。
西アフリカでのパーカッションとのセッションの話は、サーファーとアフロ・ビートとの文化を交流するという意味でも、ものすごく面白かったね。彼らとコミュニケーションをとって、映画の中でも言っているように、実際に音楽も創ったんだけれども、3日間かけてレコーディングをしたんだ。2曲を作ることが出来た。スタジオに行って、ボクらががプロデュースをして、目の前で彼らが演奏した。アフリカのホーンを入れたりしたんだけれど、音自体もとてもいいものになったと思っている。実際にはセネガルで録音したんだけど、レコーディングの翌日に学校に行ってコンサートをやって、それが終わってみんなでサーフィンに行ったんだ。あの西アフリカでのトリップでは、本当に密度の濃い経験をしたよ。彼らは本当にハードに演奏をする。もうこれ以上強く叩けないというくらいにビートを生み出していくんだ。あれはまるで、パンクロックみたいな演奏だったな。彼らの周りでダンスしている女の子の様子も、パンクを彷彿させるものがあった、可能な限りビートに合わせて身体を動かしている。ああいった熱い経験は、滅多に見る事が出来ないものだから、ぜひとも映画の中に取り入れたかったんだ。

あのセッションには、ラスタ(デイブ・ラスタビッチ:オーストラリアのサーファー)も、スイスの打楽器、ハンで参加していましたよね。
T:元々このアイデアはラスタの友達で、ギタリストのシャノンのアイディアだった。『Sprout』の撮影でオーストラリアに行った時に、彼がこの話を持ちかけてくれた。「アフリカに行って、アフロのミュージシャンと一緒に演奏するのはどうだろう?」ってね。でもボクとしてはスプラウトを作り終えようとするところで、もう旅はうんざりという感じ(笑)。しかもタフな撮影になりそうだろ。だから、今はやめとこうぜって感じだったんだ。でも、何年かたってから、あのアイデアをやってみようぜってことになった。それで今回『Present』ではやった。

アフロダンサーの女の子たちが激しく踊っている後で、ポイントブレイク(一ヶ所だけ波が立つ場所)のアフリカの美しい波に、ラスタやアレックスが乗っているのを見て、とても美しい映像だなと思いました。それでボク自身は、アフロ・ミュージックもサーフィンとリンクできるんだなぁと思いました。
T:あのシーンはボクもものすごく気に入っているシーンで、とても感情的なシーンだと思うんだ。そしてシーンの真ん中辺りに、ガボール・スザボさんの曲が入っている。とてもアフリカっぽい曲なんだけれど、ギターでジャズをプレイしているような、ちょっとメロウなビートを感じさせてくれる。ガボールさんはは67歳くらいだったかな? とても素晴らしいギタリストで、昔からファンだったんだ。だから、今回はぜひ、彼の曲を入れたかったんだ。元々、チコ・ハミルトンと一緒に演奏していた人で、それで彼のことを知ったんだけれど、あのシーンで彼の曲を使えた事はとても良かったと思っている。今回もいいなと思えるような曲が、映画の中には何曲もあるんだけれど、もうひとつ、映画の冒頭のシーン。デビッド・アクセルロッドという人の曲を使って、映画のオープニングを飾られたことは、とても素晴らしかったと思っているよ。

西アフリカの音楽がパンクのようだと言っていましたが、昔からサーフィンとパンクは、比較的密接な関係にあったように感じられます。その点、トーマスははどう考えていますか?
T:あんまり関係ないんじゃないかな。まぁ、ちょっとはあるけれど……。元々サーフィンの音楽を考えてみると、'50、'60、'70年代はブルース、ジャズが主流だったと思うんだよね。まぁ、そこからロックに流れて行ったりしたわけさっ。その中にパンクもあったかも知れないけれど、サーフィンで言うところのパンクロックは、それよりもっと後の時代のものだったと思うんだ。でも、その時代の映画はボクは好きじゃないし、いいパンクロックだとは思わない。自分が思うところのパンクロックは、ストゥージーズからブラックフライくらいのエリアだね。サーフィンで言うところのパンクロックとは、完璧にずれていると思う。

まぁ、いずれにしろ、ブラックフラックも、曲が短過ぎてサウンドトラックには使えなさそうですよね。
T:ん〜っ、まぁ、そうだね(笑)。

さっき話してくれたデビッド・アクセルロッドについて、もう少し詳しく話して欲しいんですが?
T:えっ、彼の事を、あんまりよく知らないの? そうか、けっこう有名なミュージシャンだと思ってたんだけどね。彼はLA出身で、'60〜'70年代に活躍した作曲家でありプロデューサーであるんだ。キャノンボール・アダレイらのプロデュースをしてきた人として有名だね。デビッドの曲は、ヒップホップなどで一番サンプリングされているんなんじゃないかな?
アメリカの一般的なサーファーというのは、保守的な人間が多いんだ。まぁ、典型的な例だと、ホモやゲイが嫌いだったり、見るからにタフガイで、文化的なことには興味がない人が多い。一般的なサーファーのそういう面は、ボクにとっては、とても嫌な部分だったりする。
それでボクはデビッドの曲『The Smile』をオープニングに使おうと思ったんだ。あの曲はストリングスが使われていたり、シンフォニー的なところがあって、サーフ・ムービーに使うにはちょっと変わっている。だから一般的なサーファー達がこの作品を見た時に、“何を見に来ちゃったんだろう”と、居心地悪いような感覚を受けると思うんだよね(笑)。逆に音楽好きにとってはいいと思うんだけどね。まぁ、一般的なサーファー達も違和感を感じているところに、ビートがどんどん入ってきて、嫌がおうにも乗ってきてしまう(笑)。そこがいいと思うんだよね。だから、あえてボクはこの曲を最初にもってきたんだ。

日本のサーファーも似たような部分はあると思いますよ。
T:でしょ。保守的。でも、ボクが何でそういう風に考えてしまうのかというと、おそらく自分がボクがスケートボードの方から来たためだと思うんだよね。スケートボード・カルチャーのほうが、保守的じゃなくてアウトロー。スケートボードを始めたは'74年なんだけど、それから'80年代にかけては進歩的な時期で、写真を撮ったり、絵を描いたり、雑誌を作ったり、周りにもクリエイティブな人達がすごくいて、音楽もジョン・コルトレーンも聴けば、スレイヤーも聴くし、パンクにレゲエにと、何でも聴く時代だった。何にでもオープンなところがあったんだ。自分にはそういうクリエイティブなバックグラウンドがあったんで、いろんなものを集めてやろうという気持ちがとても強いんだ。

ギャラクシアをはじめたのも、そんなバックボーンからですか?
T:ギャラクシアを設立したのは1993年で、もう16年くらい経ってる。元々はカリフォルニアのサンタクルーズに住んでいて、そこいい音楽シーンがあったんで、パートナーのグレッグ・ラムと、何かいいシングルを出してみようかということで始めたんだよね。スペースボーイとか、チャンプス(後のファンキンチャンプス)、メタルっぽいヤツとか、アンセインとかね。アンセインとはNYで一緒に住んでいたこともあって、とにかく彼らをサポートしたいという気持ちからリリースしてきたんだ。トミー・ゲレロのリリースに関しても、元々はスケートボードがきっかけ。ある日、ボクが'40年代のスケートボードのビデオを近くのレコードショップで見ていて、それがすごく良かったんでトミーにすぐ電話した。当時、ボクはスケートボードの写真を撮っていて、トミーのこともよく知っていたんだ。それで電話でビデオのサウンドトラックを作らないかと言うと、トミーが「そんなの誰も聴きたくないよ」って言うから、「いや、オレが聴きたいんだよ」って言ったんだ。まぁ、そのサントラの話はなくなって、のちにレコードを出すことになって、それがトミーにとってのファースト・リリースになったんだけどね。ギャラクシアに関しては、頑張らなかったけど、成功しちゃったって部分が多い。アメリカではそうでもないんだけど、イギリス、ドイツ、日本で反応がよくて、後からレイ・バービーやブラック・トップ・プロジェクトとか、いいアーティストも出せるようになってきたね。まぁ、スケートボードのコネクションから成り立っているって言うのも大きいんだけどね。

YouTubeなどで、『Present』のトレーラーを見てると、フォトグラフィックス(ギャラクシアの新人アーティスト)の音が使われていて、あの曲がサントラに入っていないのでびっくりしたんですけど?
T:フォトグラフィックスの曲は使っているよ。3曲使っている。ひとつは冒頭の方で、サーファー達が水の中を漂っているシーンで。最後にアレックスやラスタが、アライヤに乗っているところもそうだね。ただあのトレーラーで使っていた『Night Noise』と言う曲は使っていないんだ。フォトグラフィックスはまだ若いバンドですごく才能を感じさせてくれる。とてもアンビエントな部分があると思うと、とてもダイナミックな音の展開をみせる。これから伸びて行くバンドとして注目しているんだ。

以前、トーマスとトミー・ゲレロとマニー・マークとで話をした時、「とても才能ある双子のミュージシャンがいる」と言っていましたよね。その彼ら、マトソン2が来日した時、どこに行きたと聞くと、ふたり揃って「ジャズ喫茶」と言うものだから、一緒に、ジャズ喫茶に行ったんです。その時に驚いたのが、彼らはかかっているほとんどの曲を知っていて、しかも古い曲もリスペクトしている。日本ではジャズ喫茶なんて若い人は行く事なんてなくて、過去の化石のような場所なんですけど、カリフォルニアでは昔の音をリスペクトしつつ、新しいものを作って行くという流れが、普通にあるんでしょうか?
T:へぇ、昔の曲に興味がないというのは問題だね。カリフォルニアでは、音楽好きやミュージシャンだったら、音楽は全てにおいて勉強したいと思う気持ちになる人が多いんじゃないかな。クリエイティブな人っていうのは、過去に遡ってもたくさんいる。今やってる新しい音楽というのは過去のものの焼き直しだったりするわけだよね。ボクは音楽フリークなんで、古い音楽にも、聴いたことのないようないい音楽があることも知っているし、例えばスコット・ウォーカー・ブラザースの、1973年に作られた『ナイトフライト』なんて聴くと、昨日作られたんじゃないかと思うような新しさを感じるんだ。そういう素晴らしいものがたくさんあるんだから、枠を作って新しいものだけしか聴かないって言うのは、もったいないし、残念なことだと思うよ。今回、『Present』のサントラに起用したミュージシャンを見てもらうと、すごく幅広いし、過去40年くらいは遡れるんじゃないかと思うくらい世代的にもいろいろだ。ジャンル的にもジャズとかインディーとか、ワールドミュージックとかいろいろだ。マイス・パレードなんて、アジアの影響を受けたインディーだと呼べると思うしね。だから、とても幅広い音楽を使って作品が出来たということに感謝しているし、ミュージシャンの多くは友達ということもあって、いろんな人に頼めることが出来たんだけど、自分のことを信じてくれて、こういう風に参加してくれて、ちゃんと形になった事がとてもよかったなと思うね。

トーマスがプロデュースしたジャパニーズモーターズは、実は輸入盤だけだけど、日本のサーファーを中心に、とても人気がありますよ。
T:へぇ、それはいいね。

ボクは数年前にRVCVのイベントでジャパニーズモーターズを見たんだけど、アレックス・ノストのパフォーマンスは、アグレッシブでカッコよくて、いいミュージシャンだと思いました。
T:そう。アレックスはスターというエネルギーを持っている。自信があるんだろう。サーフィンに関しても音楽に関してもね。
日本でサーフ・ミュージックというものをみると、すごく面白いなと思うんだけど、例えばトミー・ゲレロとかレイ・バービーとかが、とても人気があるよね。でも、ボクから見ると彼らはサーフミュージックじゃないんじゃないかと思うんだけれどね。でもボクの目から見ると、ジャパニーズモーターズはサーフミュージックだと思う。音に込められた感情とか、緊張感とか、ライフスタイルとかをうまく含んだリアルなサーフ・ミュージックだと思う。サーフミュージックの中には、ジャック・ジョンソンになりたいと思ってやっているようなものが比較的多いよね。ジャック・ジョンソンはもちろん才能があるし、あれもひとつのサーフ・ミュージックだと思うけれど、サーファーにもいろんな人がいるんだから、他のものも出てきていいんじゃないかと思うんだ。そう言う意味では、ジャパニーズモーターズみたいなものが出てきたというのは価値があるし、アレックスはいいフロントマンだと思う。ミック・ジャガーとイギー・ポップが混じったような感じ(笑)。ああいう、女の子は大好きで、男はぶっ叩きたくなるようなるような、ちょっと生意気な存在というのは、とても貴重じゃないのかな(笑)。

アレックスのライディングを見ていると、アグレッシブでトリッキーで音楽と同じような気がしますよね?
T:アレックスはいつも、とても自然だと思う。だから彼のサーフィンは、何が起こるかわからない。自然に任せて波に乗っているから。彼のロングボードは誰よりも見るのが面白いと、ボクは個人的に思っているんだ。本当に何が起こるのかわからないし、信じられないことをやってくれる。エネルギッシュだし、サーフィンが大好きだということを身体全体で表現している。彼の音楽も似たようなエネルギーだとは思うけれど、同時に伝統的なメロディを大事にしているのがわかる。例えばラモーンズなんて考えてみると、彼らはドゥワップを早くしたというか、基本はちゃんと踏んでいるというようなところが感じられるよね。それと同じようにアレックス達の音楽にも、伝統的なアレンジとか、バックボーカル、ハーモニーがあるんだよ。だから彼らの音楽を聴くと、クラッシュとベルベッドアンダーグランド出会ったみたいな感じの音という印象を受けるんじゃないかな? さっきトミーやレイの音楽はサーフミュージックじゃないと言ったけど、ボクはマトソン2の音楽はサーフミュージックだと思う。自分がサーフィンをやっている時のフィールングを、感じられるような音楽。50年代、60年代のジャズを聴いていた人達の感覚を持った音楽じゃないかなと思う。

最後に『Present』は、サーフィンに馴染がなくても楽しめるような、バラエティに富んだいろんな楽しみ方が出来るサーフ・ムービーだと思いますが、トーマスにとって、『Present』の最大の魅力は?
T:日本でもそうだと思うけれど、現代人は仕事のし過ぎというか、何でももっともっとと、日々を忙しく過ごしている。自然と接する機会もないし、自然というものがどういうものだと理解するチャンスもなくなってきている。それが今回の『Present』を作ったひとつのアイデアでもあるんだけど、自然の中にいること、自然と関わってリラックスしたり静かな時間を持てる。そういうことが本当に心を落ち着かせることだと思うんだよね。サーフィンをやることで、海に囲まれているという状況に入り込む事が出来る。そういう時間をもつということ、それに関わるということが、自分にとって一番重要だということを『Present』を通じて伝えたいんだ。だからタイトルを『Present』にしたんだ。

2009年12月3日木曜日

東田トモヒロinterview:album『StayGold』について


エレベーターを降り、Gumbo Grooveの扉を開けると「すぎもとさん」と声がする。彼はこの日もギターを弾きながら待っていてくれた。東田トモヒロにインタビューする時は、なぜか彼がギターを手にしている時が多い。もちろん撮影用で持ってきてもらうこともあるけれど、この日はちょうど、ギターを買ってきたばかりだったという。意外なことにナイロン弦。ここのところギブソンJ-45が彼のトレードマークみたいになっていたのに、なぜナイロン弦のギター? 「友達が作っているギターで、3本用意してくれていて、その中の1本なんです」。気軽にギターを手渡してくれる。東田くんはいつもそうだ。ボクが少しでもギターに興味を示すと、いとも簡単に弾かせてくれる。プロのミュージシャンにとって、自分のギターはとても大切なものだから、インタビューに行って、そこに楽器があったとしても、ボクはなかなか触ることができない。やっぱり気を使ってしまうんだな。でも、ボクはけっこう東田くんのギターを弾かせてもらってるかも知れない。「やっぱりナイロン弦ギターらしく、ネックが太いね」というと、「最近、細いネックが多いけれど、太いネックの方がやっぱりいいみたいですよ」と東田くん。なるほどね、弾きやすさよりもやっぱり音で選ぶんだね。やっぱりネックの太さは気になったけど、つま弾いた時のボディのなりが気持ちいい。「ボディのなりが気持ちいいね」とギターを返すと、彼は笑顔で「そうでしょ。音が一番良かったんだよね」と、ギターを傍らに置いた。そして、さっそくインタビューの開始。
前作『この世でいちばん好きな歌』では、COOL WISE MENや佐藤タイジ、BE THE VOICEら、多彩なゲストとの共演で、幅広い音楽性、メロディ・メイカーとしての新たな一面を見せつけた東田トモヒロ。約1年半振りにリリースされたニュー・アルバム『StayGold』は、原点回帰とも言えるシンプルな音作りで、東田トモヒロならではの、オリジナリティ溢れる曲が詰め込まれている。
「今回のアルバムの構想と言うか、曲自体は、1年前くらいにはほとんど出揃っていたんですよね。最後の曲の『Lost Generation』が、今年の年明けくらいにできたのかな。ツアーやフェスの合間に曲は作り続けていて、実際には30曲くらいから絞り込んで、レコーディングの段階でこの10曲にしたんだよね。そのチョイスを始めたのが今年の2月、3月くらいで、レコーディングに入ったのが6月から。今回は、まぁ、ボクのアルバムだし、ボクらしいシンプルなものを作りたかった。例えばレコーディングの時とか、まずできた曲をバンドのみんなに聴かせるでしょ。目の前でアコースティック・ギターを弾きながら“ねっ、こんな感じ”って。その時にエレキを使ってアンプに通して聴かせることってないでしょ。そこからみんながイメージを膨らませて曲を作り上げて行くんだけど、アルバム自体をそんな雰囲気の延長線上にあるような感じにしたかったんだよね。バンドのみんなにアコースティック・ギター一本で歌って聴かせるみたいに、みんなにも聴いてもらえるものアルバムにしたかったんですよ。ボクの音楽ってそういう風にできてて、それが基本形。その基本形をみんなにも聴いてもらいたかったんですよね」
そのためにレコーディングは、無機質なスタジオではなく、山小屋に泊まり込み、機材を運び込んでバンドの仲間と作り込んでいった。
「レコーディングのためにスタジオって言うのが、あまり気分じゃなかったんですよね。それで最初は地元の熊本で合宿して録ろうかとか、阿蘇の近くがいいねなんて話してたんですけど、メンバーのことを考えると、やっぱり関東の方がいいと言うことで、いろんな場所を探したんですよ。山小屋みたいなところを……。まぁ、サーフィンもしたいし……(笑)。それでいて山がある静かな場所。そしたら鴨川ってどう? って話になったんです。実は鴨川には友達も多いし、ボクは年に一回は鴨川に行ってるんですよ。そしたら友達の友達が山小屋の管理をやっていて、たまにライブをやってるって話も聞いて、それで行ったら一発で気に入っちゃってね。で、そこに機材を持ち込んだです。もちろんプロツースも持って行ったけど、ここまでレイドバックした感じだったらっていうんで、機材も8 トラのオープンリールを持って行ったんですよね。ドラムなんて1チャンネルだもんね。ドラムってキックやハイハットやでマイクを5~6本使うでしょ。でもそれらのマイクのラインをミキサーで1チャンネルにして、オープンリールに送って録音したんです。だからミックスとかそんな段階じゃなくて、ミキサーのひとつのフェーダーを上げると、ドラムの音が全部鳴る(笑)。ビートルズは4トラのオープンリールを2つ使ってレコーディングしてるんだけど、まさにその時代のレコーディングをやってみたんだよね。ただ、テープにも限りがあるから、オープンリールで録音した音を、オープンリール自体はスルーしてプロツースに取り込んで行ったんですよ。まぁ、何曲か、弾き語りの曲はオープンリールに直で録音してますけどね。山小屋の環境の中で、自分らの楽器も録音機材もヴィンテージのものをありったけ集めてレコーディングしたんです。'70年代のラディック(ドラム)にボクは'60年代のJ-45とエピフォンのトレモロ付きのギターを弾いてるんですよね」
山小屋でのレコーディングは、ただ音を録る作業だけでなく、生活自体がレコーディングに影響する。
「面白かったなぁ。朝、サーフィンに行って、12時頃から音を録り始めて、2曲のベーシック部分を録れたら、夜、ご飯。で、また朝起きたら、行きたいヤツはサーフィンに行って、1曲弾き語りを録ることになってたら、1曲だけはみんなでレコーディングして、後はボクだけ残って、みんなはサーフィンに行って……。みたいな生活……。ボクは熊本からクルマで直で行ったから、米とかの食材も持って行って自炊してね。大きなリビングみたいなところに機材をセッティングして、音がかぶらないように机とかで一応パーテーョンはするんだけど、歌ではレコーディングで使うコンデンサーマイクが使えないの。みんなの音を拾っちゃうから……。それでライブで使うようないいダイナミックマイクで一発録り。忘れもしないけど『男の条件』とか『HERO』『Melody』は、もうヘッドフォンなんて使わなかったもんね。みんなの生音と、自分のギターの音を聴きながら録った。歌も全部一発録りだったからね。ヘッドフォン使わないレコーディングが、こんなに気持ちいいものなんだって思ったね。それはもう、何十年も前のレコーディング。時代に逆行したレコーディング? でも、きっと何か伝わるような気がするんだよね。山小屋のそこで鳴っている音がスペシャルな音なわけで、そこでのベストの音だから、スタジオでは出せないような音に仕上がってると思うんだ。自分の音楽のフォーキーでラブソングな部分への原点回帰でもあるけれど、レコーディングに関しても野性的な原点回帰な音なんじゃないかなと思うんだ。レコーディングしたのが6月最後の一週間。ベーシックな部分は全部そこで録ることができたんですよね。もちろんアコースティック・ギターの音を、力強いいい音で録りたかったんだけど、今回、ボクはエレキも弾いていて、トレモロを使って空間を漂うような音にしたんですよね。音の隙間を埋めるような柔らかな音でね。そのトレモロを使った曲は全部ボクが弾いてるんですよね」
おかげでアルバムを聴いていると、全体的にレイドバックしたような、気持ちいい雰囲気を感じられる。そしてアルバム全体に漂う、落ち着いた雰囲気には、実は『Melody』が影響しているという。
「『Melody』は元々、Leyonaのために書いた曲だけど、けっこう作るのには苦労したよ(笑)。ボクがLeyonaだったらとか、女の子だったら、好きな人のことをこう思うんじゃないかなって想像しながらね。最初『Melody』は今回のアルバムに入れるつもりはなかったんだけど、Leyonaがライブでよく歌ってくれていて、ボクも刺激されてか、自分のライブでも歌っていたんですよ。たまに新曲をやらないと飽きられるかなとか思って(笑)。そしたらけっこう評判が良くて、アルバムに入れようかってなったんだよね。特にバンドのメンバーがプッシュしてくれたんですよね。みんな『Melody』が好きだって言ってくれて。それでアルバムに入れることにしたんです。でも『Melody』を入れることによって、アルバムの方向性も変わって行ったんです。最初セレクトしていた曲は、もっとロックな感じで、メッセージ色が強かったんですけど、『Melody』を入れることによってメロウになって行って「じゃあ、この曲は合わないね」なんて、改めて他の収録曲もセレクトして行ったら、アルバム全体に、いい感じのメロウな雰囲気が加えられて行った。だから『Melody』はアルバムのキモになってるかも知れないですよね」
ボクは前回のアルバムから、東田トモヒロは素晴らしいメロディメイカーなんじゃないかなと思っていた。何気なく曲を聴いていると、独特なコード進行で、曲調ががらっと変わったりする。それが面白く東田くんらしいオリジナリティとなっているような気がする。そう言うと、
「そうですね、今回はメロディが洋楽離れしたなって思った。日本人らしいメロディになったなって思えるようになったんですよね。ボク自身が時代に逆らって生きてるようなもんで、そんな生き方を投影したものを作んなきゃなって思ったんです。そんな風に思い続けていたら、こんなメロディが出てきた。だから今回のアルバムは、商業主義に迎合することなく、自分の音楽を貫けたって思えるんですよね。周りからいろいろ言われて、あんな曲も欲しい、こんなのもあっていいんじゃないのって言われて、30曲くらい作ったんですけど、けっきょくセレクトした10曲は、そんな周りの言葉に振り回されない、素直に選んだ10曲にできたって思ってます」
そうしてでき上がったアルバム『StayGold』。なぜ東田くんはこの曲をタイトルチューンにしたんだろう?
「『StayGold』は忘れもしないんだけど、いきなり詞の1行目“ステイゴールド、心だけはいつまでも輝いていたい”って言う言葉が出てきたんです。前のボクだったら恥ずかしくて言わないような言葉なんだけど、この言葉とメロディ、ギターのリフがピタッと合ってるなと思ったんですね。何だかこの1行の詞で、ボクの今、言いたいことを全て言えたって気がしたんです。自分の気持を素直にね。例えば友達と話していて「いやぁ、心だけはいつまでも輝いていたいよね」なんて、思ってても言えないじゃないですか。なんかくさくてね。でも曲にしたら言えちゃったから、これは最高だなと思ってタイトルにしようと決めたんですよね。今でも忘れないね、あの瞬間は……。本当に大切なことをさらっと言えちゃってる。お金とか、名誉とかじゃなくて、心の大切さって、今、一番大切なことじゃないですか。もちろん『Lost Generation』や『HERO』にもメッセージはあるんですけど、この歌ができた時、すぐにこれだっ! って……。アコギのリフでループを作って、アコースティック・ヒップホップみたいな感じで、アルバムの他の曲とは一曲だけ一線を画しているんだけど、何か溶け込んでるっている。たぶんあの山小屋の環境とかがそうしてくれたんだろうけど、やっぱりどう考えても、この曲が、この曲の言いたいことが、タイトル曲としてハマってるんですよね」
ボクはこのタイトル曲の話を聞き、Neil YoungのHeart of Goldという曲を思い出していた。“Keeps me searching for a heart of gold And I'm getting old.”東田くんはまだまだ若く、年老いて行く私って訳じゃないだろうけど、確かに『StayGold』でいられたらなと思う。彼にアルバムの話を聞き、『StayGold』がますます好きになった。

profile
熊本県出身+在住。自らのライフスタイルを昇華した「歌」のメッセージで、自分を表現し続けるシンガーソングライター。小さなカフェから大型フェスまで、オーディエンスと同じ空間をシェアできる「ライブ」を大事に精力的に活動中。
現在は"東田トモヒロ“StayGold”TOUR 2009"を実施中。TOUR FINALは12月20日、渋谷duo MUSIC EXCHANGE。
公式サイト
http://www.higashidatomohiro.jp/

StayGold
発売中/2520円/Gumbo Groove

ファンクビートのアルバムタイトル曲『StayGold』から、女性の切ない彼を思う心を歌う『Melody』など、東田トモヒロの多彩な歌の世界を10曲に濃縮したアルバム。一週間を山小屋で生活しながらレコーディング。バンド仲間と音作りを楽しむかのような環境で制作されたアルバムは、アナログ機器を使用し、レイドバックした雰囲気を感じさせる。