
エレベーターを降り、Gumbo Grooveの扉を開けると「すぎもとさん」と声がする。彼はこの日もギターを弾きながら待っていてくれた。東田トモヒロにインタビューする時は、なぜか彼がギターを手にしている時が多い。もちろん撮影用で持ってきてもらうこともあるけれど、この日はちょうど、ギターを買ってきたばかりだったという。意外なことにナイロン弦。ここのところギブソンJ-45が彼のトレードマークみたいになっていたのに、なぜナイロン弦のギター? 「友達が作っているギターで、3本用意してくれていて、その中の1本なんです」。気軽にギターを手渡してくれる。東田くんはいつもそうだ。ボクが少しでもギターに興味を示すと、いとも簡単に弾かせてくれる。プロのミュージシャンにとって、自分のギターはとても大切なものだから、インタビューに行って、そこに楽器があったとしても、ボクはなかなか触ることができない。やっぱり気を使ってしまうんだな。でも、ボクはけっこう東田くんのギターを弾かせてもらってるかも知れない。「やっぱりナイロン弦ギターらしく、ネックが太いね」というと、「最近、細いネックが多いけれど、太いネックの方がやっぱりいいみたいですよ」と東田くん。なるほどね、弾きやすさよりもやっぱり音で選ぶんだね。やっぱりネックの太さは気になったけど、つま弾いた時のボディのなりが気持ちいい。「ボディのなりが気持ちいいね」とギターを返すと、彼は笑顔で「そうでしょ。音が一番良かったんだよね」と、ギターを傍らに置いた。そして、さっそくインタビューの開始。
前作『この世でいちばん好きな歌』では、COOL WISE MENや佐藤タイジ、BE THE VOICEら、多彩なゲストとの共演で、幅広い音楽性、メロディ・メイカーとしての新たな一面を見せつけた東田トモヒロ。約1年半振りにリリースされたニュー・アルバム『StayGold』は、原点回帰とも言えるシンプルな音作りで、東田トモヒロならではの、オリジナリティ溢れる曲が詰め込まれている。
「今回のアルバムの構想と言うか、曲自体は、1年前くらいにはほとんど出揃っていたんですよね。最後の曲の『Lost Generation』が、今年の年明けくらいにできたのかな。ツアーやフェスの合間に曲は作り続けていて、実際には30曲くらいから絞り込んで、レコーディングの段階でこの10曲にしたんだよね。そのチョイスを始めたのが今年の2月、3月くらいで、レコーディングに入ったのが6月から。今回は、まぁ、ボクのアルバムだし、ボクらしいシンプルなものを作りたかった。例えばレコーディングの時とか、まずできた曲をバンドのみんなに聴かせるでしょ。目の前でアコースティック・ギターを弾きながら“ねっ、こんな感じ”って。その時にエレキを使ってアンプに通して聴かせることってないでしょ。そこからみんながイメージを膨らませて曲を作り上げて行くんだけど、アルバム自体をそんな雰囲気の延長線上にあるような感じにしたかったんだよね。バンドのみんなにアコースティック・ギター一本で歌って聴かせるみたいに、みんなにも聴いてもらえるものアルバムにしたかったんですよ。ボクの音楽ってそういう風にできてて、それが基本形。その基本形をみんなにも聴いてもらいたかったんですよね」
そのためにレコーディングは、無機質なスタジオではなく、山小屋に泊まり込み、機材を運び込んでバンドの仲間と作り込んでいった。
「レコーディングのためにスタジオって言うのが、あまり気分じゃなかったんですよね。それで最初は地元の熊本で合宿して録ろうかとか、阿蘇の近くがいいねなんて話してたんですけど、メンバーのことを考えると、やっぱり関東の方がいいと言うことで、いろんな場所を探したんですよ。山小屋みたいなところを……。まぁ、サーフィンもしたいし……(笑)。それでいて山がある静かな場所。そしたら鴨川ってどう? って話になったんです。実は鴨川には友達も多いし、ボクは年に一回は鴨川に行ってるんですよ。そしたら友達の友達が山小屋の管理をやっていて、たまにライブをやってるって話も聞いて、それで行ったら一発で気に入っちゃってね。で、そこに機材を持ち込んだです。もちろんプロツースも持って行ったけど、ここまでレイドバックした感じだったらっていうんで、機材も8 トラのオープンリールを持って行ったんですよね。ドラムなんて1チャンネルだもんね。ドラムってキックやハイハットやでマイクを5~6本使うでしょ。でもそれらのマイクのラインをミキサーで1チャンネルにして、オープンリールに送って録音したんです。だからミックスとかそんな段階じゃなくて、ミキサーのひとつのフェーダーを上げると、ドラムの音が全部鳴る(笑)。ビートルズは4トラのオープンリールを2つ使ってレコーディングしてるんだけど、まさにその時代のレコーディングをやってみたんだよね。ただ、テープにも限りがあるから、オープンリールで録音した音を、オープンリール自体はスルーしてプロツースに取り込んで行ったんですよ。まぁ、何曲か、弾き語りの曲はオープンリールに直で録音してますけどね。山小屋の環境の中で、自分らの楽器も録音機材もヴィンテージのものをありったけ集めてレコーディングしたんです。'70年代のラディック(ドラム)にボクは'60年代のJ-45とエピフォンのトレモロ付きのギターを弾いてるんですよね」
山小屋でのレコーディングは、ただ音を録る作業だけでなく、生活自体がレコーディングに影響する。
「面白かったなぁ。朝、サーフィンに行って、12時頃から音を録り始めて、2曲のベーシック部分を録れたら、夜、ご飯。で、また朝起きたら、行きたいヤツはサーフィンに行って、1曲弾き語りを録ることになってたら、1曲だけはみんなでレコーディングして、後はボクだけ残って、みんなはサーフィンに行って……。みたいな生活……。ボクは熊本からクルマで直で行ったから、米とかの食材も持って行って自炊してね。大きなリビングみたいなところに機材をセッティングして、音がかぶらないように机とかで一応パーテーョンはするんだけど、歌ではレコーディングで使うコンデンサーマイクが使えないの。みんなの音を拾っちゃうから……。それでライブで使うようないいダイナミックマイクで一発録り。忘れもしないけど『男の条件』とか『HERO』『Melody』は、もうヘッドフォンなんて使わなかったもんね。みんなの生音と、自分のギターの音を聴きながら録った。歌も全部一発録りだったからね。ヘッドフォン使わないレコーディングが、こんなに気持ちいいものなんだって思ったね。それはもう、何十年も前のレコーディング。時代に逆行したレコーディング? でも、きっと何か伝わるような気がするんだよね。山小屋のそこで鳴っている音がスペシャルな音なわけで、そこでのベストの音だから、スタジオでは出せないような音に仕上がってると思うんだ。自分の音楽のフォーキーでラブソングな部分への原点回帰でもあるけれど、レコーディングに関しても野性的な原点回帰な音なんじゃないかなと思うんだ。レコーディングしたのが6月最後の一週間。ベーシックな部分は全部そこで録ることができたんですよね。もちろんアコースティック・ギターの音を、力強いいい音で録りたかったんだけど、今回、ボクはエレキも弾いていて、トレモロを使って空間を漂うような音にしたんですよね。音の隙間を埋めるような柔らかな音でね。そのトレモロを使った曲は全部ボクが弾いてるんですよね」
おかげでアルバムを聴いていると、全体的にレイドバックしたような、気持ちいい雰囲気を感じられる。そしてアルバム全体に漂う、落ち着いた雰囲気には、実は『Melody』が影響しているという。
「『Melody』は元々、Leyonaのために書いた曲だけど、けっこう作るのには苦労したよ(笑)。ボクがLeyonaだったらとか、女の子だったら、好きな人のことをこう思うんじゃないかなって想像しながらね。最初『Melody』は今回のアルバムに入れるつもりはなかったんだけど、Leyonaがライブでよく歌ってくれていて、ボクも刺激されてか、自分のライブでも歌っていたんですよ。たまに新曲をやらないと飽きられるかなとか思って(笑)。そしたらけっこう評判が良くて、アルバムに入れようかってなったんだよね。特にバンドのメンバーがプッシュしてくれたんですよね。みんな『Melody』が好きだって言ってくれて。それでアルバムに入れることにしたんです。でも『Melody』を入れることによって、アルバムの方向性も変わって行ったんです。最初セレクトしていた曲は、もっとロックな感じで、メッセージ色が強かったんですけど、『Melody』を入れることによってメロウになって行って「じゃあ、この曲は合わないね」なんて、改めて他の収録曲もセレクトして行ったら、アルバム全体に、いい感じのメロウな雰囲気が加えられて行った。だから『Melody』はアルバムのキモになってるかも知れないですよね」
ボクは前回のアルバムから、東田トモヒロは素晴らしいメロディメイカーなんじゃないかなと思っていた。何気なく曲を聴いていると、独特なコード進行で、曲調ががらっと変わったりする。それが面白く東田くんらしいオリジナリティとなっているような気がする。そう言うと、
「そうですね、今回はメロディが洋楽離れしたなって思った。日本人らしいメロディになったなって思えるようになったんですよね。ボク自身が時代に逆らって生きてるようなもんで、そんな生き方を投影したものを作んなきゃなって思ったんです。そんな風に思い続けていたら、こんなメロディが出てきた。だから今回のアルバムは、商業主義に迎合することなく、自分の音楽を貫けたって思えるんですよね。周りからいろいろ言われて、あんな曲も欲しい、こんなのもあっていいんじゃないのって言われて、30曲くらい作ったんですけど、けっきょくセレクトした10曲は、そんな周りの言葉に振り回されない、素直に選んだ10曲にできたって思ってます」
そうしてでき上がったアルバム『StayGold』。なぜ東田くんはこの曲をタイトルチューンにしたんだろう?
「『StayGold』は忘れもしないんだけど、いきなり詞の1行目“ステイゴールド、心だけはいつまでも輝いていたい”って言う言葉が出てきたんです。前のボクだったら恥ずかしくて言わないような言葉なんだけど、この言葉とメロディ、ギターのリフがピタッと合ってるなと思ったんですね。何だかこの1行の詞で、ボクの今、言いたいことを全て言えたって気がしたんです。自分の気持を素直にね。例えば友達と話していて「いやぁ、心だけはいつまでも輝いていたいよね」なんて、思ってても言えないじゃないですか。なんかくさくてね。でも曲にしたら言えちゃったから、これは最高だなと思ってタイトルにしようと決めたんですよね。今でも忘れないね、あの瞬間は……。本当に大切なことをさらっと言えちゃってる。お金とか、名誉とかじゃなくて、心の大切さって、今、一番大切なことじゃないですか。もちろん『Lost Generation』や『HERO』にもメッセージはあるんですけど、この歌ができた時、すぐにこれだっ! って……。アコギのリフでループを作って、アコースティック・ヒップホップみたいな感じで、アルバムの他の曲とは一曲だけ一線を画しているんだけど、何か溶け込んでるっている。たぶんあの山小屋の環境とかがそうしてくれたんだろうけど、やっぱりどう考えても、この曲が、この曲の言いたいことが、タイトル曲としてハマってるんですよね」
ボクはこのタイトル曲の話を聞き、Neil YoungのHeart of Goldという曲を思い出していた。“Keeps me searching for a heart of gold And I'm getting old.”東田くんはまだまだ若く、年老いて行く私って訳じゃないだろうけど、確かに『StayGold』でいられたらなと思う。彼にアルバムの話を聞き、『StayGold』がますます好きになった。
profile
熊本県出身+在住。自らのライフスタイルを昇華した「歌」のメッセージで、自分を表現し続けるシンガーソングライター。小さなカフェから大型フェスまで、オーディエンスと同じ空間をシェアできる「ライブ」を大事に精力的に活動中。
現在は"東田トモヒロ“StayGold”TOUR 2009"を実施中。TOUR FINALは12月20日、渋谷duo MUSIC EXCHANGE。
公式サイト
http://www.higashidatomohiro.jp/
StayGold
発売中/2520円/Gumbo Groove








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